
今年最後に読み終えた本は夏目漱石の「虞美人草」です。
何を隠そう、夏目漱石の長編を読むのは初めて!
短編の「夢十夜」しか読んだことなかったんですよ。これは吉野朔実さんの影響で。
漱石って主人公が男性っていうイメージがあって、自分が好んで古典を読書した時期って女性が描かれてないと読めなかったんですよね。私が子供で異性の心情に理解がなかったんですが。
今回読もうと思ったきっかけはNHKのBSアーカイブスでこの番組をやると知って録画したから
「ハイビジョン特集シリーズ恋物語 “虞美人草”殺人事件 漱石 百年の恋物語」小説のヒロイン”藤尾”の死の謎を論客が徹底的に議論するという。まるで朝まで生テレビ文学版。
東京大学教授で文芸評論家の小森陽一氏、心理学者でカウンセラー、ファミニストの小倉千加子女史、小説家で法政大学教授の島田雅彦氏、小説家の岩井志麻子さん、精神科医で評論家の斉藤環氏。
まあ、凄い面子なんですが、単に私が島田雅彦好きなだけです。すいません。ああ、作家でハンサム。なんて素敵なんでしょう(笑)
しかもこの番組、朗読が長塚圭史さん。これは見るしかないじゃないですかっ。
で、これを見るのなら「虞美人草」読まなきゃね。
で、読み始めたのが夏の終わり(爆)
ちょうど「下流の宴」を読み終えた後でした。
林真理子さんの分かりやすい文章の後に読むには難し過ぎ。
あんまり「難しい難しい」騒いでたら夫に「そりゃ文豪ですから」と言われた。
例えば小説の一節
「あとは静である。静かなる事定まって、静かなるうちに、わが一脈の命を托すると知った時、この大乾坤のいずくにか通う、わが血潮は、粛々と動くにも拘わらず、音なくして寂定裏に形骸を土木詞視して、しかも依稀たる活気を帯ぶ。生きてあらん程の自覚に、生きて受くべき有耶無耶の累を捨てたるは、雲のしゅうを出で、空の朝な夕なを変わると同じく、凡ての拘泥を超絶したる活気である。古今来を空しゅうして、東西位を尽くしたる世界の外なる世界に片足を踏み込んでこそ―それでなければ化石になりたい。赤も吸い、青も吸い、黄も紫も吸い尽くして、元の五彩に還す事を知らぬ真黒な化石になりたい。それでなければ死んで見たい。死は万事の終である。又万事の始めである。時を積んで日となすとも、日を積んで月となすとも、月を積んで年となすとも、詮ずるに凡てを積んで墓となすに過ぎぬ。墓の此方側なる凡てのいさくさは、肉一重の垣に隔てられた因果に、枯れ果てたる骸骨に入らぬ情けの油を注して、要なき屍の長夜のおどりをおどらしむる滑稽である。はるかなる心を持てるものは、はるかなる国をこそ慕え。」
難しいでしょ!!!!????
ということで、頓挫すること数回。
やっと読み終わりました。面白かった!!!また読むぞ夏目漱石。
物語の登場人物はヒロインの藤尾、藤尾の恋人小野、藤尾の異母兄甲野、藤尾の母、藤尾を妻にと望む宗近、宗近の妹で甲野を慕う糸子、小野の恩師孤堂先生、その娘小夜子。
小野は帝大卒業のとき恩賜の銀時計を天皇陛下から貰ったほどの秀才、恩師の娘小夜子を妻にすると約束を交わしておきながらヒロインの藤尾に惹かれる。
藤尾はシェイクスピアを原文で読む美貌の才女、漱石曰く”文明の淑女”気位高く馬鹿にされるのが大嫌い。彼女のイメージカラーは名前の通り紫。紫の袖に紫のリボン。
藤尾の母は夫の遺産を掠め取りたいが世間体も気にする俗人、通称”謎の女”。
藤尾の兄・甲野はニヒリストで厭世的な哲学者。
亡き父と同じ外交官を目指す宗近はおおらかで明るい性格。
家庭的な糸子、漱石の描写は「丸顔に愁(うれい)少し、颯と映る襟地の中から薄鶯の欄の花が、幽なる香を肌に吐いて、着けたる人の胸の上にこぼれかかるような女」。
琴を弾く小夜子、古風で物静かな女性。
この小説は夏目漱石が帝大の講師を辞めて、朝日新聞社に入社し、職業作家になる道を選んだ最初の作品。これって当時は大変センセーショナルなことだったそうです。三越では「虞美人草浴衣」なるものも売られたらしい(爆)
で、はじめての新聞小説ということで場面展開が最初は京都と東京が各章交替で出てくる、場面の変化を意識した凝った作り。
小野は恩師を裏切り、藤尾と結婚しようとするのですが、宗近に説得?され、小夜子との結婚を選びます。そのことを聞いた藤尾は小説の最後で唐突に死んでしまうのです。これが謎。藤尾は何故死んだの?
1.憤死:怒りのあまり脳溢血みたいな。「化石した表情の裏で急に血管が破裂した。紫色の血は再度の怒を満面に注ぐ」の一文から類推。
2.自殺説:藤尾=藤。藤の花は垂れ下がりますよね。これはすなわち首吊りの象徴だと。小倉先生の読みの鋭さにうなる。
では、彼女を死に追いやったのは?小野説、宗近説、宗近の父=明治天皇を中心とする近代国家の象徴で藤尾はこれに殺されたとする説。論客達の喧々囂々の談義が本当に面白かった。こういうのまたやってくれないかしらん。島田先生の早く酒飲んで喋ろうというのがおかしくて。しかし、よく飲むわ。
小倉先生は鋭いけどフェミニストの人ってどうしてみんな女性差別に無理矢理こじつけちゃうんだろう。あんなに聡明なのに、歪んでるわ。
そうそう、漱石といえばちょうど「ベッジ・バードン」も見まして。
萬斎さんがちゃんと相手のいるラブ・ストーリーに照れてるところが可愛かった(笑)
こちらは英国留学中の漱石。海外生活が合わずにノイローゼになった漱石を表現するのに浅野さんが一人で11役もこなして、「英国人の顔がみな同じに見える」っていうのが(爆笑)
まるで漱石の小説の主人公のように優柔不断で繊細な漱石。
大泉さんは器用で、お客さんをつかむ間がうまい人ですねえ。
深津さんは何度か舞台で見ていますが、いつも高い集中力で切なくて心を惹きつけて離さない。
来年は漱石の三部作を時間が許せば読みたいと思っております。